“ハイリスク・ハイリターン”の幻惑

[深田]商品先物取引はハイリスク・ハイリターンのイメージが強いのですが、それは必ずしも正確ではありませんよね。一面的な見方ではないかと思いますが、いかがでしょうか。

[深野]まずレバレッジは投資の効率を図る目安であって、メリットでありこそすれ、非難されるべき性質のものではないということです。そしてレバレッジはコントロールできるものであるということ。レバレッジをどの程度にするのかは、あくまでも投資家次第なんですね。レバレッジのかけ方次第でミドルリスクにもローリスクにもできるのが商品先物取引です。

[深田]おっしゃる通りですよね。実は私の身近なところには、商品先物取引が大好きという人が結構いるんです。投資資本に対する取引量(枚数)を調整することでレバレッジをじょうずにコントロールして、お小遣い稼ぎをしている人も(笑)。しっかりリスクコントロールしていれば、一般の人がイメージするほどのリスクはありませんからね。スプレッド取引でコツコツ利益をあげている友人もいます。ところで、もう一つの変更点である損失限定取引「スマートCX」とはどのようなものなのでしょうか。

金の買いポジションの例

[深野]まず投資家は、予想に反して損失を被ることになった場合はロスカット取引を発動する値段「ロスカット水準」と、万一そのロスカット取引が執行されなかった場合の最終防衛ラインである「ロスカット限度水準」の2つで商品先物取引事業者と合意します。仮に現在の金の値段が3,000円だとして、ロスカット水準を2,900円、ロスカット限度水準を2,700円としたとします。ロスカット水準は基本的に「逆指値注文」と同じ役割を果たすものです。つまり3,000円で買った金が予想に反して2,900円になったら、自動的に手仕舞いのための売り注文が発動され約定します。本来なら、取引はこれで終了となり、ほとんどの場合はこうなると予想できます。

[深田]普通の状況では考えにくいのですが、売り注文が約定しない場合、つまり買い手が現れない場合は気配値だけがじりじり下がってしまいますね。

[深野]そう。異常事態ですね。その時、ロスカット限度水準を設定していることが効果を発揮するのです。気配値がどんどん下がり、2,700円となっても買い注文が現れない場合でも、商品先物取引業者は商品取引所が定めるルールに則って投資家の注文を2,700円で執行するのです。つまり、先の取引のケースでは、投資家はどのような場合でも300円を上回る損失は被らないことになります。そして300円の値下がりに見合う証拠金30万円はあらかじめ取引の担保として預けていますから、その30万円が最大のリスクとなります。2段構えのセーフティネットによって必ず手仕舞いできる。だからスマートCXは損失限定取引なのです。ただ、現実問題としては、気配が2,700円に達する過程で手仕舞いする可能性はより高いでしょうね。

まさかの事態に備える「スマートCX」という保険

[深田]まさかの時も安心な「保険」という見方もできますね。商品先物取引は歴史が長いにも関わらず、敷居が高いイメージからか株式投資やFX(外国為替証拠金取引)ほどには投資家層が広がっていないような印象です。でも、「SPAN証拠金制度」や「スマートCX」の導入でリスクコントロールができ安心感が広がるような気がします。一般には逆指値注文、つまり「高くなったら買う」「安くなったら売る」注文を出しておけば、相場が予想と逆の動きをしても損失の拡大が未然に防げます。ただ、逆指値注文も絶対安心とはいえませんよね。2008年のリーマン・ショックのような事態になると、有効には機能しないことになってしまいます。

[深野]おっしゃる通りです。極端な状況で、売買注文がどちらか一方にだけ集中すると、買いたくても買えない、売りたくても売れない状況になりますからね。「スマートCX」の導入により、そういった万一の事態でも損失を一定程度に抑え込むことができ、投資家は保護されることになります。投資家にやさしいシステムともいえますが、当然、投資家自身もレベルアップをする必要があります。資産運用というと、短期間で大きな利益を求める人がいますが、それは投資ではなく投機です。「SPAN証拠金制度」や「スマートCX」をうまく使って、資産運用を本来の投資として楽しんでいきたいですね。

[深田]証拠金の額だけを見ると通常取引に比べて「スマートCX」は大きいようにも感じますが、それを上回るメリットがありそうですね。とくに投資ビギナーは、多少証拠金が高くてもリスクが小さく限定された方がいいはずですから。自動的にリスク管理がセットされているメリットは計り知れないはずです。

[深野]商品先物取引の経験が豊かな上級者は、これまで通り通常取引で楽しむこともできますからね。投資家それぞれの経験、知識などに応じて「スマートCX」か通常取引かを選べばいいわけです。

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深田萌絵氏

プロフィール

美術短大卒業後、就職、海外語学留学などを経て、早稲田大学政治経済学部に入学。インターネットTV、マネー誌などで大学生株アイドルとしてブレイクする。アセットマネジメントでのインターン、日系のリサーチハウスでの株式アナリストなどを経て独立。現在はトレーダー・ファイナンシャルアドバイザーとして活躍する。

深野康彦氏

プロフィール

ファイナンシャルプランナー。有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表。さまざまなメディアを中心に、専門の金融資産運用設計から、保険、ライフプラン設計まで幅広く対応。ラジオ日経では「深野康彦のマネーマガジン」のパーソナリティー、新著に「これから生きていくために必要なお金の話を一緒にしよう!」ダイヤモンド社がある。

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